「交換価値」という言葉はよく耳にしたことがあると思うが、この記事は「交換価値」と微妙に違って、「価値交換」について書いている。交換価値というのは商品の価値を何かで図れるに対して、価値交換というのは「価値」そのものの「交換」のことだ。その「価値」の交換に使われるのは交換価値のある手段だ。イギリスの経済学者、Adam Smithによると、商品の価値は2つあると言う。1つはある特定物の効用を表す使用価値であり、もう1つは交換価値であって、経済学の対象は後者だ。この記事は前者の方の商品の価値の交換についてだ。微妙な違いのラインはあるが、もちろん、交換価値の内容も含めている。
人類は長い歴史を経て、組織化され、社会でシームレスに機能するようになった。人類にとって最も困難な問題のひとつは、価値を交換し合うことだった。貨幣を使うようになる以前、人々は物々交換をしていたが、これは大変不便なことだった。貨幣とは、商品やサービスの交換を容易にする手段だ。何千年もの間、価値交換を行うために人類が発明した最も先進的なツールのひとつだ。最古の貨幣鋳造地として知られているのは中国で、紀元前640年頃に貨幣を使い始めた。それ以来、人類は絶えず貨幣の形やシステムを改良し、変化させてきた。現在は新しい形のデジタルマネーが構築され、価値交換のための新しい手段として受け入れられている。
貨幣が発明される以前、人類は物々交換を行い、商品やサービスを交換・取引していた。物々交換は商業の最も古い形態と考えられている。物々交換とは、商品やサービスを他の商品やサービスと交換することで、大工は農家のために柵を作り、農家は大工に作物や食料品で報酬を支払っていた。リンゴ農家はバナナ農家とそれぞれのフルーツを交換していた。ニワトリを飼育している人とヤギを飼育している人はそれぞれを交換していた。しかし、この物々交換システムには欠点があった。一頭のヤギをニワトリに交換するのにたくさんのニワトリが必要だった。商品やサービスの価値を他の商品やサービスで測ることがとても難しかったのだ。同等の物やサービスの価値を個人間で見積もって個人間の合意に基づいて物々交換を行っていた。2人の個人が交渉しあって自分の商品やサービスの相対的な価値を決めていた。今でも物々交換を行う国が少なからずある。ある意味、第三者の介在がなくて便利だから続いているのだ。
物々交換は、家族や友人など少人数で行う場合、非常に便利だ。例えば、兄弟間で母親の皿洗いや父親の芝刈りを毎日順番に手伝ったり、父親の靴を磨いたりするシナリオを考えてみよう。当日の順番の代わり翌日、兄弟と交代してもらったりすることができる。このような場合は取引を紙やコンピューターに記録したりしない。お互いを信頼しあって、翌日の順番を代わってあげたりする。家族や友人に何かを手伝うこともその手伝いの価値を提供しているということだ。しかし、コミュニティや社会がますます大きくなるにつれ、見知らぬ人同士が言葉で信頼し合うことはとても複雑で不可能だ。このような信頼の問題が生じたから人類は価値の交換をするためのある物を開発したのだ。それこそがお金という概念になったのだ。人々は自分の製品、サービス、時間、価値、知識をこの交換手段と交換できるようにツールを発明したのだ。
金属は価値交換の手段として多用されていた。物々交換のシステムでも、一般的な金属と貴金属の両方が使われていた。物々交換と金属交換の利用は、現代の貨幣制度への道を開いてくれた。ローマ帝国では商品やサービスを交換するために青銅を貨幣としてよく使用されていた。労働者には金属で給料が支払われていた。世界の様々な地域で、多種類の価値交換手段が使われてきた。金属硬貨は最も一般的に使われていた。金、銀、銅は、世界中で硬貨に使われていた一般的な金属だ。金属硬貨の他にも、食塩、貝殻、アフリカで使われていたガラスビーズ、ヤップ島で使われていたライ石など、様々な形の価値交換手段があった。
ガラスビーズがアフリカでお金として使われていたのは、アフリカ人がガラスビーズを作る技術を持っていなかったため、希少価値があると考えられていたからだ。しかし、ヨーロッパ人がアフリカにやってきて、お金として使われてるガラスビーズのことを知ると、彼らは無制限にガラスビーズを作り出し、大陸全体のガラスビーズの価値を下がってしまった。
ヤップ島のライ石は、富や富裕、さらにはお金そのものの象徴としても使われていた。島の人々は、誰が特定のライ石の持ち主だかについて、はどこにも記録することがなかった。そのライ石は巨大で重く、誰も持ち運ぶことができなかった。人々はその石の持ち主が誰だかを公表し、誰もがその総意に従った。土地や家のような大きな売買取引がある場合は、島民全員の前で所有権の移転を発表し、それが正式な価値の交換だった。
このような価値交換は、人類がずっと行ってきたが、その過程では常に不都合や詐欺、無効化、不正などが存在していた。そのため、人間は常に価値交換の方法やお金そのものの欠陥を改良してきた。物々交換から石、金属硬貨、紙幣、プラスチックカード(クレジットカード)、データベース上の数字、そして現在は完全なデジタル・ネイティブ通貨へと移行しようとしている最中だ。この新しいデジタル通貨について知りたければ、The Bitcoin Standardを確認してください。
価値交換手段の発明には長い年月がかかり、現在もその改良と発明は進行中だ。人間は常にあらゆるものを改良し、より良いものにしようと努力する。お金や価値の交換手段も同じだ。私たちは常に、より良いお金の形を探し求め、さまざまな種類のお金を発明してきた。これは、現実世界における長い実験のプロセスでもある。人間の行動がお金や経済に与える影響が大きくて、その行動が変わればお金の使い方やお金そのも自体も変わる。しかし、人間の行動が変わるには数十年から数百年かかる。
今までは、価値交換手段が良い形も悪い形も変わり続けてきた。なので価値交換手段の発明そのものは、私たちの文明の偉大な発明のひとつだ。価値交換手段は、価値やサービスの交換を容易にしてくれるので、私たちはより良い社会の実現に向けて努力することができている。しかし、金貨に含まれる金の量を減らす皇帝や、無制限に紙幣を印刷する中央銀行など、価値交換手段を不正に操作しようとする悪者は常に存在し、今後も存在し続けるだろう。このような不正行為は、価値交換手段の価値の低下を招き、貨幣発行・印刷の権威に対する信頼の低下にもつながる。
経済が複雑になるにつれ、この価値交換手段は紙幣に統一された。紙幣は、交換価値の測定と比較を容易にすることで、取引コストの削減に役立った。現在の通貨標準は、データベース上の単なるデジタル記録に近い。歴史を通じて、人類は今までこの価値交換手段を使用するために、特定の性質に従ってきた。以下は、価値交換ツールとしての重要な特性だ。
1. 代替可能
これは価値交換手段の最も重要な性質だ。1単位は、同じ手段の別の1単位とまったく等しく、同じ価値を持つべきだ。例えば、1,000円札は別の1,000円紙幣と同じ価値を持っていなければならない。金貨のような商品やコモディティーの場合、両貨幣の重量と純度が完全に同じだった場合にのみ、両方の価値は等しいと言える。
2. 可分性
価値交換手段は、商品やサービスの大小や価値にかかわらず、価値の交換が容易に行えるよう、割り切れるものでなければならない。例えば、可分性のお金を使ってチョコレートは10円、パンは100円、食事は1,000円、靴は1万円、パソコンは30万円で交換=購入することができる。
3. 携帯性
価値交換手段は、他人と価値を交換する必要があるときにいつでも使えるように、簡単に持ち運べるものでなければならない。例えば、一日中牛を持ち歩き、自転車と交換するのは大変なことになるのだ。紙幣は、牛に比べて財布に入れて持ち歩き、新しい自転車と交換するのに非常に使いやすい。貴金属にはこの性質がなく、大量の貴金属を持ち運ぶのは大変だし、安全でもないからだ。盗難の可能性もあるし、遠方まで貴金属を運ぶにはコストもかかる。
4. 耐久性
物々交換システムでは、人々はバナナとリンゴを交換していた。バナナもリンゴも価値交換の手段として使われていたが、どちらも耐久性がない。リンゴもバナナも2日〜3日で腐ってしまい、その後はまた交換したり、食べたりすることができなくなって、価値を失われてしまう。黄金が何千年もの間、信頼されてきたのは、その耐久性が強みの1つだからだ。永遠の耐久性を持ち、溶かしたり、他の形に変えたりすることはできますが、元の重さは変わらず、価値も全く下がらない。
5. 価値と富の貯蔵
価値交換手段は時間と空間の両方にわたってその価値を保持すべきでだ。黄金は世界のどの国でも同じ価値を持ち、また時間を超えて価値を保ち続ける。1930年の英国における1オンスの黄金の価値は4.25ポンドだったが、現在は1,522ポンドまで上がっているのだ。GBPは黄金に比べて99%以上の価値を失っている。同様に、1971年の黄金1オンスの価格は35ドルで、現在は1,800ドルまで上がっている。これは黄金の価値が上がっていることは言えるが、国々の政府が発行するお金の価値が下がり続けているという見方もできる。中央集権的に作られ、管理される通貨は歴史上、常に失敗して来ている。成功した事例は1つもないと考えると今後も例外というのは必ずと言って良いほど、ないだろう。
6. 認識可能
価値交換手段の認識性は、利用者全員が容易にそれを認識し、交換条件に同意できるように、一目でわかるものでなければならない。例えば、世界のどの国も黄金の価値を認めているが、多くの国はガラスビーズを簡単に作ることができ、価値がないと分かっているから価値交換手段としては認めない。
7. 会計単位/交換手段
現在の世界の通貨制度は、それぞれの国で不換紙幣を使用している。それぞれの国が独自の勘定単位を持っている。例えば、日本は日本円を会計単位としており、米ドルは会計単位として使用できない。これは世界経済にとって大きな摩擦だ。もし世界に単一の勘定単位があれば、このような問題は生じないだろう。人類はこの不都合も克服していくだろう。この性質を持つ新しい通貨システムの候補はすでにあるということは認識しなければならない。
8. 安定供給/希少性
この性質は、価値交換手段の最も重要な性質の1つでもある。近年、貨幣の絶え間ない印刷によって、貨幣の価値が切り下げられるのを目の当たりにしていると思う。価値の変動を防ぐためには、貨幣の供給は長期にわたって比較的一定でなければならない。経済における貨幣の氾濫は、既存の貨幣の価値を希薄化させるため、その価値の低下を引き起こすことになる。商品の希少性は、他の非希少資産よりも価値を与えるものだ。例えば、黄金は銀よりも希少なため、銀よりも価値がある。しかし、銀は、人間が黄金ではできないような安価な商品の交換に適していたため、より小さな取引に適した価値交換手段として使われていた。
ストック・フロー比率
商品の安定性や希少性は最も重要な特性の一つだが、バランスも重要だ。価値交換手段としての貨幣は、社会で利用可能そして最も販売可能な物でなければいけない。あらゆる人々が欲しがり、あらゆる製品やサービスを交換できる手段でなければならない。だからこそ、貨幣の流動性が重要なのだ。必要な流動性がなければ、過度に希少な貨幣は優れて良い貨幣とは言えない。例えば、ロジウムのようなある種の原子元素は金よりも希少だが、ほとんど誰も持っていないため流動性が極めて低く、価値交換手段としては何の役にも立たない。 隕石も結構良い例で、地球上で非常に希少なものだが、流動性がないため貨幣としては使いものにはならない。そこで、あらゆる商品の供給量を測る尺度として、数学的に計算できるストック・フロー比率という概念を利用できる。これは基本的に、現在世界に存在する量(ストック)を、1年間に新たに生産できる量(フロー)で割ったものだ。
歴史上、約18万7,000トンの金が採掘されており、これが金のストックになる。金を破壊することはほとんど不可能なので、採掘されたものはすべて残っていることになる。毎年、平均して約3,000トンの金が採掘されている。金を採掘するのは非常に難しく、それが世界中で好まれる理由と価値のある商品の理由のひとつだ。金のストック・フロー比は平均で約18万7,000/3,000=63であり、これは世界のどの商品よりも高いストック・フロー比だ。これは基本的に、ワールド・ゴールド・カウンシルの推計に基づくと、世界が年間平均生産量の63年分をまとめて所有していることを意味する。
2番目に価値の高い金属、銀のストック・フロー比は現在22であり、プラチナは約1だ。つまり、プラチナの生産量が現在のプラチナ在庫の2倍になるには約1年かかるという意味だ。一方、銀がこれを達成できるには22年かかる。金の63年から70年に比べると、これらの貴金属は金のレベルとはほど遠いのだ。これが、最も価値のある貴金属が金の理由だ。
しかし、技術の進歩により人類は海底から金を取り出す深海採掘を行うことができるようになっていくことは間違いない。最近では小惑星採掘の可能性さえ提案されており、小惑星や地球近傍天体を含む他の小惑星から金のような必要な貴金属を抽出することができるとされている。近い将来、このような採掘が成功することになれば、金のストック・フロー比は劇的に低下し、人々はこの単なる黄色い金属を所有したがらず、その価値などもまったく気にしなくなることも考えられる。
近年、ほとんどの国の不換紙幣に比べて金の価格が上昇している。その理由は、その国々が通貨供給量を大量に増やし、購買力を低下させているからだ。そして、金は簡単に生産することができないため、今日最も強い商品として考えられている。しかし、金は何千年もの間、一つの特性において失敗し続けて来た。金を使って空間を通じて価値を交換することは非常に難しい。特に、金の量が多ければ多いほど重くなるし、移動には摩擦が多い。遠方への金の移動には膨大なエネルギーが必要であり、そのための超高額な移動コストだったり、盗難や強盗からのセキュリティの懸念もあるのだ。各国は、金塊を他国に移送する際、安全保障のために莫大な軍事力を費やしているのだ。
ここでビットコインのストック・フロー比を見てみよう。ビットコインの総供給量の上限は2,100万枚で、そのうち約1,950万枚はすでに採掘されている。マイナーは現在、1ブロックあたり6.25BTCの報酬を獲得している。約10分ごとに1ブロックが採掘されるため、年間で約32万8,500BTCのフローに相当する。ビットコインのストック・フロー比は、19,500,000/328,500=約59と計算できる。
このブロック報酬は4年ごとに半減され、次の半減期は2024年4月に予定されているため、その時点からストック・フロー比率は2倍になることが確定だ。これにより、ビットコインのストック区・フロー比率は約118となり、金の約2倍になる。この比率が高ければ高いほど、希少価値が高いという意味だ。マイナーのブロック報酬が4年ごとに半減されるため、この傾向は2140年までに続くのだ。ビットコインはどれほどの価値を持ち、新たな価値交換の手段となるのだろうか。それは時間が経てば明らかになってくるだろう。
人類は何千年もの間、価値の交換する方法を絶え間なく改善し、革新してきた。これから先も、間違えなく改善・革命を起こしていくだろう。
ビットコインの供給と半減期については、今後の記事で詳しく書いていくつもりです。
この新しい価値交換手段の候補に興味があれば、The Bitcoin Standardを一度読んでみてください。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。本記事はいかがでしたか?それではまた次回。
3 replies on “価値交換”
[…] この記事の前に、価値交換やお金についても書いたことがある。興味があればそちらも読んでみてください。ビットコインのコードについては今後も記事を書いていく予定です。 […]
Usually I don’t learn post on blogs, however I wish to say that this write-up very compelled me to take
a look at and do it! Your writing taste has been surprised me.
Thanks, quite great post.
[…] フィアットというのは法定通貨ことを示す。経済全体の観点から時間選好について考えてみよう。政治家や指導者は、自分たちの有能さを証明するため、あるいは示すために、即座に結果を出そうとする。しかし、実際に起きているのは、長期的には複合的な破壊を生み出すような政策の作り方なのだ。近年、世界中の政府が自国通貨を数え切れないほど刷っているのは書くまでもないと思う。その結果、世界各国の債務が増加しているのも当然のことだ。中央銀行による恣意的な通貨の増刷により、法定通貨は時間の経過とともに購買力を失っている。通貨の価値の保存する性質は、もはや本来の機能を果たしていないのだ。通貨の特性については、過去に書いた価値交換を一読ください。このような状況を知れば、理性的な国民がお金を貯めるはずがなく、以前よりも多くの負債を積み重ねるようになるだろう。その結果、生産性が低下し、誰にとってもより良い未来にはならない。社会はこのように悪化していくだろう。 […]